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2006年09月20日
177.妻の財産を夫に相続させない方法
Q: 私は夫から、結婚後10年間ずっと虐待を受けてきました。3ヶ月前、体調不良のため病院で検査を受けたら、ガンであることが判明し、余命半年と告げられました。私が死亡した場合、結婚前から所有していた自宅等の不動産や預金があるのですが、夫には相続させたくありません。何か方法はないでしょうか?
A: 民法の原則でいくと、人が死亡した場合、その人の遺産(債権及び債務)は法律で定められた相続人が当然に承継することになります。ここでは旦那さん、奥さん、子供の家族構成であれば、奥さんが亡くなれば、旦那さんと子供が相続することになります。
しかし、相談の件では、旦那さんから長期間虐待を受けていたので相続させたくないということなので、この場合にはいくつか方法が考えられます。
主なものをあげてみると、
(1)不動産や預金を生前に処分してしまう。
(2)遺言で子供たちだけに相続権を与える。
(3)家庭裁判所に旦那さんの相続人廃除の申し立てをする。
というような方法です。
1つずつ検討してみましょう。
(1)の生前に処分してしまう方法の場合、不動産を売却しただけでは現金に変わるだけで資産は減りませんし、買い物以外で現金・預金を限られた期間内に使うのも限度があるでしょう。また、全部使ってしまうと当然子供にも何も相続させることは出来ません。
(2)の遺言で相続する割合を定めたり(子供がすべて相続する等)、特定の財産を指定して子供に相続させる(○○は子供が相続する等)方法もありますが、この場合は旦那さんに遺留分というものが認められますので、旦那さんがある一定割合相続する可能性は残ってしまいます。
※遺留分=例えば、被相続人が遺言で特定の者1人にすべての財産を相続させた場合でも、
他の相続人が財産の一定割合を取り戻すことが出来る権利です。
(2)の場合には、旦那さんは全財産の1/4の権利を主張することが出来ます。
今回の事例の場合には、(3)の方法が使える可能性が高いでしょう。
(3の)相続人の廃除というのは、推定相続人(死亡する前は相続人をこういいます)が被相続人に対して、虐待をしたり、重大な侮辱をした場合に、家庭裁判所に申し立てをして、その者を相続人から外してしまう制度です。
この制度は、推定相続人に著しい非行があった場合にも認められることになっています。(民法第892条)
被相続人の意志にまで反して、相続を認めることは、相続制度の趣旨に添うものではないので、そのような場合に遺留分も含めたすべての相続権を剥奪出来る制度なのです。
この申し立てをして、家庭裁判所の審判が確定すれば、事実上旦那さんは奥さんの一切の財産を相続することが出来なくなります。
ただし、この虐待や重大な侮辱、著しい非行などは、全体で判断されますので、一概にどこからは虐待や侮辱にになるとはいえません。
判断基準としては、被相続人と推定相続人との間の家族的・相続的共同体が破壊される程度に至っているかどうかにかかるとされています(修復の余地がないぐらいの状態です)。
旦那さんが本当に長い期間、奥さんに虐待を続けていたのであれば、推定相続人排除の制度を使えば遺産を渡さなくてもすむかもしれません。
しかし、この制度は信頼関係が完全に破壊されていることが前提ですから、よく考えた上で得使わないと、残っていた信頼関係も破壊してしまうことになるかもしれませんし、他の家族との関係にも影響することもあります。
慎重に選択することが必要です。
司法書士 大竹弘幸
投稿者: 日時: 2006年09月20日 18:43 | パーマリンク | ▲このページの上へ
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